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第21回グラフィック「1_WALL」審査会レポート - リクルートアートセンター - Scrapbox

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公開最終審査会レポート
2019.9.3 金


9月3日(火)、第21回グラフィック「1_WALL」の公開最終審査会が行われました。「1_WALL」は、1次審査、2次審査を通過した6名のファイナリストが個展開催の権利をかけてプレゼンテーションを行い、その場でグランプリが決まる、他にはないコンペティション 。グランプリ受賞者には、個展開催費として30万円が支給されるという特典付きです。また近年、ディスプレイで表現する作品も公平に審査したいという視点から、今回から「1_WALL」で初めてオンラインでの応募も受け付けました。はたして、どんなアーティストがグランプリを獲得したのでしょうか。
それでは早速、第21回グラフィック「1_WALL」公開最終審査会の様子をたっぷりとお伝えします。


FINALISTS
田中義樹 / Yoshiki Tanaka
猛暑 / Mousho
yukomayumi / Yuko Mayumi
近藤麻矢 / Maya Kondo
近藤大輔 / Daisuke Kondo
加瀬透 / Toru Kase
※プレゼンテーション順・敬称略

JUDGES
上西祐理 / Yuri Uenishi(アートディレクター/グラフィックデザイナー)
菊地敦己 / Atsuki Kikuchi(グラフィックデザイナー)
都築潤 / Jun Tsuzuki(イラストレーター)
長崎訓子 / Kuniko Nagasaki(イラストレーター)
保坂健二朗 / Kenjiro Hosaka (東京国立近代美術館主任研究員)
※五十音順・敬称略

審査会当日、多数の応募者の中から選ばれた6名のファイナリストが、ガーディアン・ガーデンに集合しました。そして、審査員による作品チェックが進んでいきます。続々と一般見学者たちも集まり、今回も会場はいっぱいに。ファイナリストによるプレゼンテーションとともに、審査会スタートです。


プレゼンテーション&質疑応答




田中義樹「気分はサイトシーン」

今年の5月から6月にかけて1か月ほど香港に滞在していて、日本に帰ってきた10日後くらいにデモが始まった。歴史の分岐点となるデモを目撃できなかったことが、ちょっと悔しい。最初は観光客気分で状況を見ていたが、香港の情勢が悪化していくにつれて感情移入してしまうようになって、展示作品のタイトルとは裏腹に冷静ではいられなくなった。しかし、制作を始めるにつれてだんだんと気持ちが落ち着き、作品自体も冷静に作ることができて、主張しない作品に仕上がって良かったと思う。床の犬は、芸術家である蔡國強の作品に影響を受けている。個展では、作家の友だちを集めてサッカー部を結成し、サッカーをしたい。オープニングパーティーではコントなどもできたらと考えている。

Q.菊地:主張しない作品とはどういう作品のこと? もしくは、田中さんが考える主張する作品の定義とは?
A.田中:メッセージのある作品は主張する作品だと思っている。

Q.長崎:今回の作品はメッセージのない作品ということだが、それはメッセージ性がない作品ということ? それとも、メッセージ性はありつつも表面上は感じさせない作品ということ?
A.田中:メッセージや思いは自分の中にあるが、それをできるだけ作品に反映させずに作った。なので、表面上はメッセージ性を感じさせない作品になったはず。

Q.上西:個展では全く違うテーマになりそうだが、今も連日ニュースになっている香港の問題をテーマにした作品作りは、これで終わりなの?
A.田中:これで終わりというわけではなく、個展の時にも、また違う何らかのかたちで要素を入れられたらと思っているし、考え続けていきたい。





猛暑「その日々を思い浮かべて」

人の暮らしや生活感といったものが、大きなテーマ。一つのキューブの中に、そこで暮らしている人の暮らしやその人の性格を想像しながら部屋の絵を描くことを主軸としている。人の暮らしには必ず時間という概念が存在していて、客観的に見れば誰でも平等に見えるが、実際には感じる時間の速さや質は人それぞれ。しかし、誰かと一緒にいて時間を共有している時には、速さや質が同じになることも。それらの時間が時には混じり合い、離れ、世界が構築されていると私は考えている。今回、さまざまな人の時間を描いて壁一面に集めることで、自分も一つの世界を構築できたのではないかと思う。個展では、部屋の絵をさらに増やして世界を再構成し、物語性も加えたい。また、キューブ型を規則正しく並べて集合住宅を描くなど、いろんな角度から世界を表現したい。

Q.菊地:違う空間のもの同士が重なっているところがあるが、それはどういう意図なの?
A.猛暑:家が並んでいるなどの風景を見た際、建物が重なっているように見える。その視点を意識した。また、それぞれ異なる形を重ねることで、さらに異なるかたちを生むと考え、重ねている。

Q.長崎:個展では物語性を加えると言っていたが、具体的にはどんな作品にするの?
A.猛暑:主人公を一人決めて、その人の1日あるいは1か月を描いて並べようと考えている。

Q.保坂:さまざまな人の暮らしを描いていると言っていたが、作品は均質に見える。それについてはどう思う?
A.猛暑:自分ではそれぞれ異なると思っているので、今後作品作りを続けていく上で解決していきたいと思う。




yukomayumi「アーバンオアシス」

とどめておきたい一瞬をカメラに収めるように景色を結晶化したいという思いで、今回の作品を制作した。この作品はベルリンに滞在していた時に作ったものだが、東京にいた時に苦しさを感じていた“見せかけのハピネス”や“即効性のあるプラスチック”を経験したからこそ、生まれた作品。採集したものを咀嚼し直し、組み立てていくことを、とてもラグジュアリーな時間であると感じている。人工鉱石を壁に飾るように展示できたらという思いから、今回の展示方法になった。個展では「リッチフィールド」と題して、今回の作品のテーマとは反対に、東京の“ギラつき”にフォーカスして、新たな都会の魅力を表現できる展示作品を作りたい。

Q.保坂:ポートフォリオに比べて、展示作品を見ると細かいことを気にしていないように見受けられるが、それは意図したものなの?
A.yuko:展示作品は、自分では丁寧に作ったつもり。剥がれやすい、落ちやすい部分は工夫をするなどもした。

Q.長崎:ポートフォリオでは、写真などを使ったコラージュの平面作品として見ていたが、展示はアクリル板などマテリアルを使っていて雰囲気が異なる。立体にしたい、人工芝やアクリル板を使いたいと言う言葉には、どのくらい強い思いがあるの?
A.yuko:今回は何かから切り取られたような、本来はその場所にないような感じにしたかったのでベニヤ板を素材として選んだ。完全な平面で見せたいわけでない。

Q.上西:横から見るとベニヤ板の厚み部分が見えてしまうが、そこに対してどう思っているの?
A.yuko:今回は切り取られた雰囲気にしたかったので、あえて縁は見せている。これ以上厚さが増してしまっても、プロダクト製品のようになってしまうと感じている。





近藤麻矢「地平線に行くようなものだ」

空想の世界をイメージした絵と言葉の制作を行った。今回展示した全ての絵は、地平線をたどっていくとつながる同じ世界だ。真ん中に横三つ展示した絵はメインの世界の絵で、周りに散らばった小さな絵は、その三つの絵をつなげるための絵。言葉は、絵と重なりまじわることで混乱と発見を呼び、さらなる自由を加速するためのものであると考えている。そういう意味では周りに散らばった小さな絵も、メインの絵の世界に膨らみを持たせる役割をしているはずだ。個展では、二つか三つほどの空想の世界を表現したい。そのメインの絵は今回と同じような大きさで、さらにその絵から離れた視点で捉えた絵を別に描き、大きな作品も展示したい。複数の表現方法を用いて、展示会場で一つの世界を作る予定だ。

Q.菊地:ポートフォリオで見るテキストと展示で見るテキストは印象が異なり、どうしてもポートフォリオの時のように、絵を見て、テキストを見て、と絵本のような感覚になれない。それに対してどう感じているの?
A.近藤:展示作品は確かにポートフォリオと見せ方が異なるが、ポートフォリオも絵本的に見せたかったわけではない。今回の作品では、テキスト自体もグラフィックとして見せたいと思い展示を行った。

Q.保坂:メインの3枚の絵と周りに散らばった絵のかたちに違いがありすぎて、ごちゃごちゃしている印象。なぜ3枚の絵だけ四角い世界にしたの?
A.近藤:もともとこの3枚の絵は「1_WALL」に応募した段階でできあがっていた作品で、展示しようと考えていた。その世界を形成している作品として周りの絵を制作したため、このようなかたちの違いが出た。

Q.上西:3枚のメインの絵が横に並んでいるのに対し、その他の絵の配置にどんな意味があるの?
A.近藤:タイトルにあるように三つの絵は地平線で、これが基準になっているので、上にあるものは空にあるものなので軽い印象の絵を、下にあるものは地面にあるものとし、重い印象の絵を配置した。





近藤大輔「ららら」

作品のタイトルは「ららら」。このタイトルは、歌を歌うような感覚で普段絵を描いているので、今回の展示も同じような気持ちでできたらという思いからつけた。なので今回の作品は、普段描いている絵をもう少し拡張させるつもりで大きなベニヤ板を用いて展示を行っている。個展では、今回の展示作品で用いた板を会場全体に配置し、絵に囲まれている感覚になれる空間を作りたい。さらに、日常的に描いているドローイング作品やキャンバスの作品を点在させたら面白い作品になるのではと考えている。

Q.保坂:会場でスプレーは使えないので、会場とは別の場所でスプレーを使って板の絵を描いたと聞いている。板に描かれた人のシルエットやそこにかけてある小さなサイズの絵の配置も外で考えたもの?
A.近藤:板に描いた絵はある程度配置を考えていたが、かけてある絵の配置の仕方はこの会場に設営で入ってから決めた。

Q.都築:ポートフォリオでは、いろんな場所に作品を置いて、それを写真に撮っているようだが、今回の展示作品ではなぜあれを再現しなかったの?
A.近藤:今回も同じスタイルで展示をしようか悩んだが、「1_WALL」は“壁”がキーワードのコンペティションなので、今回は壁を利用した展示にした。また、あれは遊び心から出たアイデアなので、今回も自分に遊び心さえあればある意味、再現可能だとも思った。

Q.長崎:近藤さんの作品を、グラフィティーとして鑑賞者は受け入れるべきだと思う?
A.近藤:自分ではグラフィティーの要素がある作品だとは思っているが、それだけが主軸と言うわけではない。受け取り方は鑑賞者それぞれに委ねたい。





加瀬透「モニュメント、マン」

自分が“把握できないこと”に魅力を感じていて、それについて作品を制作した。具体的に僕にとって“把握できないこと”の一つに高層ビルがある。なぜかというと地上より上がよく見えないからだ。さらには肉眼では見えない原子や、ユニコーンなどの存在があやふやな空想上の生き物、実態を把握できない煙などがそうだ。これらは不確実でリアリティーさがなく不安定だと思っており、自分の中のスケールを超えた“モニュメント”という不確実な姿を借りて描いたのが、今回の作品。個展では、今回の作品よりも大きなサイズの作品を展示したい。何かの表面を扱ったり、何かの動きを扱ったり、今回の作品の延長線上にはありながらも新たな試みを用いた展示にしたいと考えている。

Q.都築:1枚1枚の絵の中に小さく描かれている人がいるが、あれが「モニュメントマン」なの?
A.加瀬:タイトルは「モニュメントマン」ではなく、「モニュメント、マン」(モニュメントとマン)。小さな人が「マン」で、これはモニュメントのスケールを図るものさしのような存在として描いた。

Q.保坂:モニュメントは得体の知れないものを描いているとのことだが、その割には大きさがほぼ一定。スケールや大きさは関係がないように感じるが?
A.加瀬:大きさは一つの要素でしかなく、作品の中にある(サイズの)差異を見てほしかった。

Q.上西:額縁を木の素材にしたのは、なぜ?
A.加瀬:ステンレスの額縁にしたら、モニュメントも「ああステンレスでできているんだ」と思われるが、木の額縁にすると「もしかしたらモニュメントも木でできているのかも」と思ってもらえる可能性があって、あやふやにしたかった。




























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